2016年06月13日

黒ウィズGP2016 〜 勝戦への疾走

←魔轟三鉄傑 対 外道伯爵

ディートリヒ・ベルク.jpg

〈英雄〉.jpg

[〈英雄〉]
ぷう ぷう ぷうぅ。

〈英雄〉と呼ばれる仲間が、
厳かに口を開きました。

[〈英雄〉]
ぷう……。ぷう……。

それはとても怖い、
そしてとても危険な夢だったと言うのです。

  *  *  *

若き将校は、今、黒鉄の中にいた。

それは空を飛ぶ棺と呼ばれていた。

血と硝煙の、不愉快な匂いが漂う棺であった。

ディートリヒ.jpg

[ディートリヒ]
棺桶だ、と嘲り笑う者がいるようです。
いずれ沈む柩のようだ、と。

"ドルキマスの造船技術を侮る輩もいるのだな"

[ディートリヒ]
ふふ、我らを恐れてのことかもしれません。

[ディートリヒ]
ならば少将閣下。
開戦の狼煙は、派手に上げるべきでしょう。

ディートリヒが涼しげに口元を笑み歪めて、
少将──自身の上官に答えた。

そして小さく息を吐いた後で、
戦艦の進む先を見据える。

[ディートリヒ]
少将閣下。霧が晴れれば、
敵国が見えてくるでしょう。

[ディートリヒ]
彼の国は正面から迎え撃つつもりのようです。
思考の欠落した貴族らしい、愚策とも言える。

"であれば、どうする?"

少将は配下の知将に問う。

[ディートリヒ]
2隻背後に回しましょう。
3隻は地上に降り立たせ、潜伏させるのがよい。

"それをどうするのだ?"

"正面と背後から挟み撃ちなどと、
よもやそんな馬鹿な話はないだろう?"

[ディートリヒ]
無論、敵国も背後に気を配らぬほど
愚かではないでしょう。

[ディートリヒ]
せいぜい背後の警戒を強めるのが関の山。
しかし、3隻の戦艦は地上へ降り立たせられる。

[ディートリヒ]
彼らは貴族だ。
礼に始まり礼に終わるべきと考えている。
戦争とは、そうあるべきと考えている。

[ディートリヒ]
何も特別なことをする必要はないのです、閣下。
我々は、ただ敵軍の警戒する空を抜けるだけ。
それだけでよいのです。

"……まさか貴官は"

"正面に待ち構える敵とは相対せず、
地上に乗り込み制圧しようと考えているのか?"

"敵国の、民や街に手をかけるというのか?"

[ディートリヒ]
背後から撃つことも、地上を焼き払うことも、
そこに大きな差はありません。

"しかし……"

"しかし、我々は軍人だ。
正面に待つ敵を避けることも、
無駄に被害を拡大させることも許されないのだ"

[ディートリヒ]
少将閣下。軍とは、
国に勝利をもたらすための装置に過ぎません。

[ディートリヒ]
我々に必要なのは、礼儀作法ではなく、
勝つための策であり、
思考することをやめた敵を討つ覚悟なのです。

[ディートリヒ]
礼に始まり礼に終わる戦など、
行儀の良い国同士でやらせておけばよい。

[ディートリヒ]
そんな強者が勝つための言い分を、
我々が受け入れる必要はありません。

[ディートリヒ]
全て焼き尽くし、土地をさらう。
地上から攻め入ることも、ひとつの策です。

[ディートリヒ]
閣下。ご決断を。

"……う、うむ"

ディートリヒが志願兵として
ドルキマス国に現れたのは、
およそ3年ほど前のことだった。

彼はどこか、特別な雰囲気を漂わせていた。

聡明であり、大胆な策を打ち、
何より配下の兵に慕われる青年であった。

[ディートリヒ]
少将閣下には
我が軍を鼓舞していただくだけでよいのです。

[ディートリヒ]
何しろここにいるのは閣下の薫陶を受け、
戦場に立ちたいと考えた者ばかりですから。

"なに、貴官のおかげだ"

"貴官がいなければ、
この軍は早々に撤退していただろう"

[ディートリヒ]
では参りましょう、閣下。
我らドルキマスの勝利のために。

(道中)
ディートリヒは何を考えているにゃ……?

地上はもはや街、
あるいは国としての見る影もなく、
残骸と成り果てていた。

敵の戦艦を狙うわけでなければ、
そう難しい作戦ではなかった。

どれだけ被害を受けようと、
地上を破壊してしまえばよかったからだ。

[ディートリヒ]
この街を落とすのに、
我々はどれほどの被害を受けた?

[ブルーノ]
さあ、わかりませんな。

ディートリヒの部下であるブルーノは、
悪びれる様子もなくそう言った。

[ディートリヒ]
ふん。よく撤退せず持ち堪えたものだ。

[ディートリヒ]
閣下は、この被害について何か仰っていたか?

[ブルーノ]
いえ、特には。
少将殿は、どうにも戦争に疎いようです。

[ディートリヒ]
言葉が過ぎるぞ、ブルーノ。

ブルーノ・シャルルリエは、
ディートリヒの部下であった。

叩き上げの軍人で、知性はそこそこだが、
生き残ること、相手を打ち倒すことにおいて
よく力を発揮した。

[ディートリヒ]
少将閣下には、まだ少し健在でいてもらわねば。
努々忘れるな。我らの敵はまだ生きていることを。

[ブルーノ]
無論です、ベルク大尉。

[ディートリヒ]
本来なら敵の援軍が来る前に、
掃討してしまいたかったところだが。

[ブルーノ]
面目次第もない。

入隊当初、
過去の経歴を持たないディートリヒを訝る者は
とてつもなく多かった。

小国とはいえ、軍には歴史があり、
歪んだ矜持を持つ者が多かったからだ。

[ディートリヒ]
ブルーノ、貴様はよくやったよ。
まさかこの戦力で戦い抜くとは、
私も驚いているんだ。

[ブルーノ]
冗談はよしてください。

青年将校の言葉を、
ブルーノは小さくかぶりを振って否定した。

冗談といえばそうなのだろう。

これだけの打撃を受けて"よくやった"などと、
本来ならば吐いてはいけない言葉である。

しかし……。

[ディートリヒ]
いや、貴様はよくやっている。
敵の援軍が来ることが最もよいのだ、ブルーノ。

[ブルーノ]
……どういう意味ですか? 大尉。

[ディートリヒ]
なに、開戦は派手にやるべきだ、という話だ。

[ブルーノ]
…………。

ブルーノは気づかない。

静かに……そして冷たく燃えるその瞳に。

[ディートリヒ]
増援が来たようだな、ブルーノ。

ほんの一時の沈黙を置いて、
ディートリヒは口を開いた。

[ブルーノ]
そのようですな。戻りましょう、大尉。

[ディートリヒ]
……ああ。

(クリア後)

敵国が抱える領地を奪ったとはいえ、
ドルキマス国の被害は惨憺たるものであった。

数百にのぼる兵を失った。

よもやこれほどの打撃を受けるとは、
おそらく少将は思いもよらなかったであろう。

戦争の意味として、そして勝つための犠牲を、
彼は考えていなかったのだ。

"…………"

もはや言葉を紡ぐことさえ、彼にはできなかった。

援軍による集中砲火を浴び、
撤退の命令を出すための兵を失い、
沈みゆく船に乗ったまま、愕然と外を眺めている。

何故、これほどの援軍が来たのか?

何故、地上を砲火した後で撤退しなかったのか?

何故、ディートリヒ・ベルクは、
これに気づかなかったのか?

"……本当に彼は気づいていなかったのか?"

敵がたった数隻であるとは考え難い。

であるならば、どうして……
あの男は敵の援軍があることを、
告げなかったのだ?

"棺桶だ、と嘲り笑う者がいるようです"

"いずれ沈む棺のようだ、と"

少将は、ふとそんな言葉を思い出した。

彼は疑念を抱く。

"あの男は、
意図的に敵の増援があることを伏せていたのか"

"私が愚かであることを利用し、
嘲り笑いながら見ていたのか"

もはや前方も後方も取り囲まれ、
逃げだすことなど出来そうにない。

その中で少将は、
いくつかの疑問、そして答えを導き出した。

今更になってあの男が今、この場にいない理由。
そしてあの男が仕組んだであろう策に……
少将自身が利用されたことを知った。

"開戦の狼煙は派手な方がよいなどと……
私をその狼煙にしようというのか、
ディートリヒ・ベルク"

砲撃を浴びて、揺らぐ戦艦。

幾人もの兵がこの棺の中で、
ただ無情にも訪れる死を待っていた。

"街を攻めるなどと、体のいい理由を作り上げ、
奴は私をここで葬る予定だったということか"

"私が死ねば、更に深く攻めこむ理由を得られる。
そして自らが逃げるための囮として、
私を利用したのか、ディートリヒ・ベルク"

あの男にとって必要だったのは、
少将の死と退くための時間だ。

ここで勝とうなどと、思っていなかったのだろう。

"この程度のことに気づけないとは、
しょせんは私も
貴族のひとりに過ぎなかったということか"

そうして燃え上がる戦艦の中、
身動きをとることが出来なかった男は、
そこで静かに息を引き取った。

  *  *  *

[ブルーノ]
しかし困りましたな。
少将殿がいないと軍が……。

[ディートリヒ]
報告は私が行う。なに案ずるな。
貴様はこれまでどおり尽力してくれればよい。

地上に降り立ったディートリヒ以下、
数名は沈みゆく戦艦を見上げていた。

[ディートリヒ]
少将閣下。あなたは無能であったが、
それゆえ利用するに足る将でありましたな。

[ディートリヒ]
愚策に気づくことなく、自らの船と共に散れて、
さぞやお喜びのことでしょう。

その呟きは、ブルーノには届かない。

ドルキマス国を、そして国王を討つという意志が、
全てを犠牲にしても構わないという黒い信念が、
ディートリヒ・ベルクを掻き立てる。

そのために必要なものを利用し、
不必要なものを切り捨てる覚悟は、
既に出来ている。

少将が消えた。

軍はほんの一時、混乱に陥るだろう。

それすらも利用する。

その覚悟が……。

[ディートリヒ]
まだ足りない。
この程度では、復讐には至れない。

心に熱を帯びたディートリヒは、
小さく言葉を漏らした。

やがて心が擦り切れ、死を望むそのときまで、
ディートリヒは決して立ち止まることはできない。

夢のあとには……→

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posted by yamanuko at 19:49| Comment(0) | イベントストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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