2016年09月20日

空戦のドルキマスU 昏き英雄 〜 昏き英雄

←絶級:憎しみのゆく果て

要塞の奥。
固く閉ざされた扉の向こうに、彼はいた。

[ディートリヒ]
ご無沙汰しております。
グスタフ・ハイリヒベルク国王陛下。

その老人は、皺深い顔に恐怖の色を乗せ、
喉がひきつったような声を上げる。

[グスタフ]
ディートリヒ・ベルク……
なぜ、貴様が……。

[グスタフ]
いや……やはりそうか。

[グスタフ]
貴様の目的は、このドルキマスなどではない。
わしの命──このわしへの復讐か!

[ディートリヒ]
……ほう。

やや意外そうに、ディートリヒは目を細める。

[ディートリヒ]
お察しのとおりです、陛下。
意外と回る頭をお持ちだ。

[グスタフ]
元帥となった貴様に会ったときから、
そうではないかと思ってはいた……。

[グスタフ]
そんな冷たい目をする人間が、
この世にふたりといるはずはないと……。

顔中に、どっと脂汗を流しながら、王は問う。

[グスタフ]
わしが憎いか……ディートリヒ……。

[ディートリヒ]
もはや憎い難くないの問題ではない。

[ディートリヒ]
あなたのような無能な人間は、
王という地位にあってはならない。

[グスタフ]
王なきあと……貴様は、国をなんとする!

[ディートリヒ]
知ったことではありませんな。

ディートリヒは、冷然と笑った。

それは──
君が今まで見てきたディートリヒの笑みのうち、
最も冷たく、最も酷薄な微笑だった。

[ディートリヒ]
国も。軍も。
今このときのために使い捨てるべきものでしか
なかったのですから──

[グスタフ]
そ……その目だ。
その目だ、ディートリヒッ!!

[グスタフ]
わしはその目を恐れていた。
幼いおまえの目に宿る、冷たすぎる理性の光を!

[グスタフ]
だから排した! すべてはおまえが原因だ!
おまえの母も、おまえさえおらねば
巻き込まれることはなかったのだ!!

グスタフの糾弾を、ディートリヒは鼻で笑う。

[ディートリヒ]
今さら──そんな言葉で私がとまるとでも?

[ディートリヒ]
それに、あなたが捨てたのは我々だけではない。
妾に子を産ませてはもろともに捨てる──
そんなことを繰り返してきたのでしょう。

[グスタフ]
き、貴様にっ、貴様にわしの気持ちがわかるかっ。

[グスタフ]
こんな戦乱の世、こんな小さな国の王家に生まれ、
く、国を守るために、わしがどれだけ重圧に
耐えてきたか、わからんのかっ。

[ウィズ]
(わかるか≠ニ聞いたり、
わらかんのか≠ニ言ったり、忙しいにゃ)

[ウィズ]
(話からするとディートリヒの父親みたいだけど、
とてもそうは思えないにゃ)

ディートリヒのような智謀もなく、度胸もなく、
生まれを選べず小国の王になるしかなかった。

その辛さ、その苦しみは、確かにあるだろう。

だが──だからといって、
人の運命を狂わせることが
許されるわけでもない……。

[ディートリヒ]
では、陛下。

ディートリヒが、すっと銃を持ち上げた。

[グスタフ]
ひっ──

銃口を突きつけられたグスタフは、
腰を抜かして後ずさる。

[グスタフ]
や──やめろ、やめろディートリヒ!
王位を、王位をくれてやるっ。いや、
おまえこそ王になるべきだ、そうではないか!

[ディートリヒ]
あいにく、興味がございません。

ディートリヒの指が、引き金にかかる。

その銃を、君は横からそっと押さえた。

[ディートリヒ]
……なんのつもりだ?

君は首を横に振る。

彼を王座から下ろす≠フが目的なら、
もう銃弾はいらない、と。

この国は変えられる。
あえて王の命を奪わなくとも。
ディートリヒ自身がその状況を組み上げたのだ。

[ディートリヒ]
…………。

ディートリヒは、じっと君を見つめた。

その瞳に宿る色は、やはり君には読み取れない。

やがて。

ディートリヒは小さく息を吐き、銃を下げた。

[ディートリヒ]
……かもしれんな。
思った以上に小物であった。
もう少しくらい気骨があるかと思っていたが。

[ディートリヒ]
それに──そうだな。
彼女≠焉A
この男の死を望んで逝ったわけではなかった。

ディートリヒは、くるりときびすを返した。

[ディートリヒ]
これほど小さな男にこだわる理由は、もはやない。
ゆくぞ、魔法使い。
戦争の終わりを告げねばならない。

そうして、ゆっくりと歩き出す。

君は、ほっと胸をなでおろし、
ディートリヒの後に続いた。

銃声。

[ウィズ]
にゃっ──

君は硬直し、前をゆく男の背を見つめる。

彼は振り向きすらしていなかった。
ただ、銃を持つ右手をさらりと後ろに差し出し、
当たり前のように引き金を引いていた。

振り返る君の視線の先で、
胸を撃ち抜かれたグスタフ王が、
ずるりと倒れ伏してゆく。

なぜ──とつぶやく君に。

[ディートリヒ]
なんだ、貴君。
まさか──

ディートリヒはようやく振り向き、
笑いながら、言った。

[ディートリヒ]
私の言うことを、信じたのか?

  *  *  *

──その後。

要塞を散居したディートリヒが、敵味方全軍に
ドルキマス王の崩御を伝え、
降伏を勧告した。

これに対し、
敵軍を率いていた第1王子アルトゥールは、
速やかに降伏を宣言。

ドルキマス王国史上初の謀反が、
ついに達成された瞬間であった──

[ヴィラム]
おいおい、マジかよ。
なんで要塞の内部から元帥殿が降伏勧告してんだ。

[フェリクス]
文字通り、キングをチェックメイト……
にしたって、御自ら要塞に乗り込むなんざ、
正気か、おい?

[クラリア]
ふん。新参者は知らないだろうが、
ベルク元帥は自ら前線に立たれるお方だ。
そして、だからこそつかめる勝利がある!

ディートリヒは、
要塞の前まで降下してきた旗艦に迎えられ、
ブリッジへと上がった。

[ローヴィ]
……元帥閣下。

[ディートリヒ]
留守を守ってくれたようだな、ローヴィ。
よくやった。

[ローヴィ]
はっ……。

[ディートリヒ]
ところで──

ディートリヒは、ローヴィの隣を通り過ぎざま、
ぼそりと小さくささやいた。

[ディートリヒ]
殿下にお目通りを願いたい。
場を設けてくれるか、ローヴィ。

[ローヴィ]
……!! 閣下、あなたは──

愕然と凍るローヴィに、
ディートリヒは、ただ薄く笑うのみだった。

  *  *  *

放棄された鉄機要塞の一室で、
彼らは、この謀反の勃発以来、
初めて顔を合わせていた。

[ディートリヒ]
会談に応じていただき、ありがとうございます。
アルトゥール殿下。

[アルトゥール]
慇懃無礼な態度はやめろ、ディートリヒ。
私はすでに王子ですらない。
王たる父は貴様に討たれたのだからな。

[ディートリヒ]
ならば、王位を継承なされませ。

あっさりとした物言いに、
アルトゥールもローヴィも息を呑んだ。

[アルトゥール]
……私を傀儡の王都するつもりか?

[ディートリヒ]
私は無能な王を排除するべく兵を挙げたのです。
その後の統治を望むものではない。

その言葉に、アルトゥールは、
あっけに取られて固まった。

すべての前提が狂っていた──
今更ながら、その事実に気づかされていた。

[アルトゥール]
ディートリヒ……我が弟よ。

[ローヴィ]
──!

事情を知らなかったローヴィが瞠目する。

構わず、アルトゥールは続けた。

[アルトゥール]
まさかとは思ったが……
おまえは本当に、父を討つことだけが──
復讐だけが目的だったというのか。

[アルトゥール]
小型艇を使う策くらい見抜いていたのだろう。
にもかかわらず無策で艦隊を進ませたのは──

[アルトゥール]
艦隊それ自体を囮として、
自らの手で父を討ちたかったからか!
ディートリヒ!

[ディートリヒ]
私は最適な手段を行使したにすぎません。

[ディートリヒ]
そして、勝った。それだけのことです。

[ディートリヒ]
それに、殿下。
それをおっしゃるなら、私の方こそ、
殿下のなさったことに疑問があったのですが。

[アルトゥール]
なんだと?

[ディートリヒ]
なぜ、降伏勧告を受け入れたのです。

どこかつまらなそうに、ディートリヒは言った。

アルトゥールは言われている意味がわからず、
目を瞬かせる。

[アルトゥール]
なぜ──とはなんだ。おまえが王を討ったのだぞ。

[ディートリヒ]
それだけです。殿下の優勢に変わりはなかった。
先王の崩御など気にせずに、
我が艦隊を殲滅すればよろしかったのです。

[アルトゥール]
は──旗印を失った状態で抵抗を
続けたところで、泥沼の消耗戦にしかならぬ。

[ディートリヒ]
ですが、勝ち目はあった。
それなのにどうしてあっさりと降伏したのか──
実は、それがずっと疑問だったのです。

アルトゥールは押し黙った。

暗に、諦めの良すぎるつまらぬ男≠ニ
揶揄されているような気がした。

王座に就いたところで安心するな。
暗愚とわかればすぐにでも討つ>氛
そう言われたような気もしていた。

[アルトゥール]
(だが……無能な王を討つ、というのは、
父に復讐するための口実ではなかったのか?)

ディートリヒに権力への執着がないことは明白だ。
そして、積年の悲願であったろう復讐も、
見事、その手でやり遂げている。

なら、今のデディートリヒには何がある?
どんな願いが、
望みが残っているというのだ……?

[アルトゥール]
……ディートリヒ。

疑問に駆られ、アルトゥールは思わず問うていた。

[アルトゥール]
復讐を果たし、私を王位につけて──
おまえはこれから、何を望む?

ディートリヒは、かすかな笑みを浮かべ。

当たり前のように、答えた。

[ディートリヒ]
──戦争を。

[ディートリヒ]
それ以外に、何も望むものはありません。

  *  *  *

その後、種々の交渉を済ませ、
ディートリヒはローヴィとともに部屋を辞した。

何も言わず、通路を歩き始める。

その背に、ローヴィは声をかけた。

[ローヴィ]
閣下。

[ローヴィ]
私が第1王子の手の者だとわかっていて……
どうして、お側に置かれたのです。

[ディートリヒ]
言わねばわからぬような者に、
副官の任を与えたつもりはない。

[ローヴィ]
私は──私にとっては、ドルキマスがすべてです。
この国の繁栄……この国の存続!
それを守り、導くことが、私の使命です!

[ローヴィ]
お答えください、元帥閣下。

[ローヴィ]
あなたは──
この国をどうされるおつもりなのですか!?

[ディートリヒ]
国を守りたいのなら、私に敵を示せ。
ローヴィ。

ディートリヒは振り返らない。

[ディートリヒ]
──私を利用してみせろ。

[ディートリヒ]
待たせたな、魔法使い。
では、準備をしようか。

[ディートリヒ]
次なる戦争──その、準備を。

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posted by yamanuko at 22:42| Comment(0) | イベントストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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