2017年01月09日

賀正の花喧嘩 ハヅキ・ユメガタリ

「んが……」
朝、雀が鳴き始める頃、ハヅキ・ユメガタリは行きつけの小料理屋で目を覚ました。
それを見て、小料理屋の大将はぬるいお茶漬けをハヅキの前にドンと置く。
「あー、悪いなぁ朝飯まで作ってもらって。漬物くれよ」
「サッサと帰れって意味なんだけどな?」
「いいから漬物くれよ、塩味がねぇとそもそも箸が進まねぇだろ」
 言いながら、ハヅキは箸でチンチン、と皿を叩く。大変行儀が悪い行為であるが、もう大将はそれを止める気すらない。
「つーけーもーのー!」
「あぁもう、うるせーな! 新年だってのに全くよぅ……」
 ぼやきながら、ぬか床を漁る小料理屋大将。その次の瞬間だった。
「新年ン!?」
 叫び声とともに椅子を跳ね飛ばし、さらに腰に下げた刀の柄を机に引っ掛けぶっ倒し、手を付けていないお茶漬けを周囲にまき散らしながら、ハヅキは勢い良く立ち上がった。
「うわぁ馬鹿野郎! 冷や飯とはいえ食いもん粗末に──」
「大将、折り入って頼みがある」
 ハヅキは突然真剣な表情になり、大将を見据えて言う。その豹変ぶりに、彼はゴクリとツバを飲んだ。
「お、おう……なんだよ急に」
「……ツケといてくれ!」
「お前ぶっ飛ばすぞ! 待てコラァ!」
 大将が止める間もなく、ハヅキは入り口の扉を勢い良く開け、賭場の方向へと全力で走り始めていた。彼女の目的は賭け事ではない、そこで行われる──

「喧嘩だァ!」
叫び声とともに、賭け事長屋から勢い良く飛び出してくる男たちの集団。集団は外に出るとふたつに別れ、互いが互いを睨みつけた。片方は町人連中、そしてもう片方は入れ墨をいれたあらくれ者たちだった。
「おうおう、新年一発目の運がねえからって突っ掛かるとはどういう了見だァ?」
 賭け事長屋の元締めである『みずち屋』両右衛門が大見得を切りながら、町人たちへと大きな声を上げる。 
「何言ってんだ、サイコロ4つのチンチロなんか聞いたことねえぞ!」
「そうだそうだ! お前ら下手くそなんだから素直にサイコロ振ってろ!」
 いつもの調子でヘタなイカサマがバレたのだろう、そんなヤジが大きく飛び、両者の間に熱が入り始める。責められ続け、涙目になった両右衛門は腕まくりをすると、ついに喧嘩の口火を切った。
「いい加減にしやがれ! こうなったらやってやらぁ!」
 あらくれ者たちは一斉に短刀を抜き放ち、町人たちにその切っ先を向ける!

 だが、その時!

「その喧嘩買ったーー!!」
 群衆を飛び越え、両右衛門の前に飛び出てきたのは、ハヅキ・ユメガタリ!
「待ってましたァ!」
「来ると思ってたぜハヅキちゃーん!」
 町人たちの声を背中で受け、腰の剣をシャランと抜くと、ハヅキは両右衛門にニヤリと笑いかける。
「あけましておめでとう、みずち屋!」
「て、てめえ急に出てきて何様のつもりだ!」
「お年玉ください!」
 ハヅキのあっけらかんとした答えに、ついに両右衛門の堪忍袋の緒が音を立ててキレる。
「ふっざけんな、おめえら、やっちまえ!」
「おおおお!!」
 こうしてハヅキの新年はみずち屋相手の大喧嘩で始まった。

ちなみに、両右衛門が目のあたりを横切る盛大な青あざを作り、喧嘩疲れした彼女がリンドウ屋敷に行くのは、もう少しあとのこと。

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ラベル:謹賀新年2017
posted by yamanuko at 23:29| Comment(0) | イベントストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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